LAS Production Presents

 

 

 

Soryu Asuka Langley

 

in

 

 

 

starring

Shinji Ikari

 

and

Misato Katsuragi

as Beauty Woman

 

 

Written by JUN

 


 

Act.1

MISATO

 

-  Chapter 5  -

 

 

 

 

 

 

 アスカとシンジは何も喋ることが出来なかった。

 リツコが魚臭い原付で隣町に帰ってしまった後、コテージには主のミサトとアスカたちの3人だけになった。

 そのミサトは二人がやってきてから一度も口を開いていない。

 ただ黙って、テーブルに頬杖をついている。

 その目は二人のことを見てもいない。

 リツコはただ見ておいてくれればいいとだけ言い残していった。

 彼女が馬鹿な事をしないようにと。

 馬鹿な事…。

 自殺……。

 アスカとシンジは頷きあった。

 元すご腕刑事のミサトだ。

 その気になったら二人がかりでも止めることは出来ないだろう。

 となれば、その気にさせないより他に手はない。

 つまりぼんやりとさせておくのだ。

 刺激しないようにただ見守る。

 だからアスカとシンジは会話も出来ない。

 アイコンタクトをしようとするのだが、互いに何を考えているのか全くわからない。

「ちょっと、アンタたち、何してるの?」

「わっ!」

 突然ミサトに声を掛けられて、シンジは奇声を上げてしまった。

 アスカもギョッとした。

 ミサトの声があまりに普通だったからだ。

「ね、アスカ、ビール取って」

「だ、ダメよ。リツコが絶対に飲ますなって」

「もう…いけずぅ」

 唇を尖らせてミサトが拗ねた。

 ところが、彼女の頬は緩んでいる。

「もう!みんな心配しすぎだっちゅうの。アイツが死んだって正式に発表されたんじゃないじゃない」

「そ、そうですよ、ミサトさん」

「う〜ん、シンちゃんはいい子ねぇ」

 そう言うなり、ミサトは隣に座っていたシンジの頭を抱え込んだ。

 シンジは椅子を倒して、上半身からミサトの胸に倒れこんだ。

 昨日とは違う。

 昨日は後頭部だった。

 今日はまともに胸の谷間へ顔を埋めている。

 おまけに右手はミサトの左のたわわな乳房をわしづかみにしている。

「うわぁ〜っ!シンちゃんったら、だいた〜ん!」

「うがっごごげんががぎっ!」

「ああ〜ん、そんなところで大きな声出されたら感じちゃうわン!」

「い、い、いい加減にしなさいっ!」

 アスカがキレた。

 回り込む時間が惜しくて、アスカはテーブル越しにシンジの襟首を掴んだ。

 もちろん、Tシャツに指を引っ掛けるのが精一杯だったが、そのまま彼女は自分の方に引っ張る。

 Tシャツはシンジの首を締めながら、首のところが思い切り伸びた。

「ぐげっ!」

 シンジは楽になろうと顔をあげようとするが、ミサトがそれを許さない。

「ダメよン。シンちゃんは私がいただいちゃうの!」

「ダメ!絶対にダメっ!」

 アスカは顔を真っ赤にして、その手を離さない。

「ふふふっ!面白いわぁ!」

 歓声を上げるミサト。

 しかし、その瞳は笑っていない。

 悲しみの色をそのままにして、シンジとアスカに戯れている。

 そのことに気付くには、この二人は若すぎた。

 ミサトが少し元気になった。

 気を紛らわそうとしているのだと思い込んだのだ。

 真実は違う。

 ミサトの加持への愛はそんな程度のものではない。

 生きているかもしれないなどという淡い期待など考えることも許されないくらい、真剣で深い愛情なのだ。

 加持が死んだ。もう私のところには帰ってこない。もうあの顔を二度と見ることは出来ない。

 ミサトは気が狂いそうだった。

 彼女のことを思ってここに来た3人の気持ちなど考える余裕はどこにもなかった。

 ただ彼女は空虚な自分の心を埋めてくれるものを欲していた。

 それは…。

 

 シンジは上半身裸になった。

 ついに破れてしまったTシャツはすでにゴミ箱の中。

 その騒動の間に、ミサトは缶ビールを確保している。

 アスカが我に返ったときには、3缶ものえびちゅがミサトの胃の腑に納まっていた。

 あっちゃあ〜!やられちゃった!

 依頼主が苦虫を噛み潰したような表情で自分を見る場面を想像して、アスカは溜息を吐いた。

 でも、どうして私はあんなに無我夢中になってしまって、ミサトの動きを見逃しちゃったんだろう?

 実に簡単な回答が用意されているのに、アスカは気付かなかった。

 シンジがミサトに肉体的に接触していると、アスカはカッとなってしまい我を忘れてしまう。

 子分だからという言い訳はあまりに苦しすぎる。

 誰が見てもシンジに気があるからにしか考えられない。

「ゲームしよ!ゲーム!」

 ミサトが大声で提案する。

「何するんですか?」

 いまだに赤い顔をしているシンジが尋ねる。

 その頬の赤みがアスカには気に入らない。

 しかし、シンジにすれば仕方がないことだろう。

 生まれて初めて、女性の(しかも美女の)胸に顔をうずめ、さらにはその乳房をわしづかみにしたのだから。

 もしここに誰もいなければ…、シンジは心置きなく青年の主張を始めたことだろう。

 しかし、今ここにはアスカ親分がいる。

 さらにはその性的対象であるミサト本人も。

 ケンスケあたりがこの状況を見れば、嫉妬に狂ってしまいそうだ。

「そうねぇ、アメリカンページワンは知ってる?」

「知ってるわよ」

「あ、多分…」

 ミサトはサイドボードからトランプを一組取り出した。

 流麗な手つきでシャッフルするミサト。

 そして、3人の勝負が始まった。

 

「こらケンスケ、さっさと動かんかい!」

「けっ!さっきまで“しんどいのぉ”なんて言ってたの何処のどいつだ」

「何やて?勤労青年に向かって何を言うとるんや、君は」

 つい今しがた間で不在のシンジをネタに不平不満を漏らしていたトウジが豹変したのは、

 もちろん彼女が浜茶屋に来たからだ。

 そして、ケンスケの機嫌が悪いのはヒカリと一緒に店に入ってきたマナが、

 顔を見るなりぷいっと横を向いた所為である。

 昨晩のアスカの乳首ぎりぎりショットが、元々少なかった好感度をさらに減らしてしまったのだ。

 さて、今も浜茶屋には従業員はこの二人しかいない。

 シゲルは巧くマヤの機嫌を取り結び、二人して買出しに出かけてしまったのである。

 トウジはヒカリにいいところを見せようと張り切り、そのヒカリは頼もしげに彼を見つめる。

 お目当てのシンジはアスカに連れ去られ、ヒカリは変な関西弁男に夢中。

 いまいましげにケンスケを睨みつけることで腹立たしさを少しでも解消しようとするマナだった。

「ちょっと!焼きそばまだ?こら、そこのスケベメガネ、早く持ってきなさいよ!」

 

「いっぱい買いましたねぇ」

「ああ、今がかきいれどきだからなぁ。今のうちに儲けておかないと、冬が越せないんだよ」

「ふふふ、でも…」

 そう言ったきり、マヤは疾走する軽トラックの助手席から海岸を見据えた。

 急に言葉を切ったマヤを不審気に横目で見るシゲル。

「でも…何?」

 マヤは顔を外に向けたまま小さな声で答えた。

「キャンパスより、今の青葉さんの方が好きです」

「え?何だって」

 生憎とエンジンがうるさい軽トラック。

 しかも窓が開いている。

 マヤの一言は断片ですら、シゲルには聞こえなかった。

「マヤちゃん、ごめん。聞こえなかった」

「もう、言いません」

 今度はよく聞こえた。

「何だよ、気になるじゃないか」

「あ、赤ですよ」

「おっと」

 隣町の市場から県道に出る信号で停止した軽トラック。

 その鼻先に正面から原付が突っ込んできた。

「げ!信号無視!」

「きゃっ!」

 バンパーから5cmの場所に停止した吉田鮮魚店の原付は、リツコが運転していた。

「いいところで出会ったわ」

 色気のない白いヘルメットを脱いで、リツコは運転席のシゲルに声をかける。

「あ、赤木さん。滅茶苦茶しないでくださいよ」

「あら、そう?計算通りだったんだけど」

「はぁ…、で、何ですか?」

 他に車が走っていないので、平気で信号の交差点で話を始める二人。

 マヤは気が気でない。

「あ、あの、いいんですか。こんなところに停めて」

「あら、奥さん?可愛いわね」

 リツコの一言はマヤを沈黙させた。

「ち、違いますよ。そんな」

「あら、じゃ私がいただいてしまおうかしら?」

「冗談じゃないでしょ、赤木さん」

「私は冗談を言えないの」

「はいはい、で、何ですか」

「私をミサトのコテージまで乗せていって」

「え?でも今そこから戻ってきた途中じゃないんですか?」

「これを返しに来たの。でも、返してしまうと、また戻るのが大変だから」

「だから、俺に送れと」

「正解。13分で戻るから、ここで待ってなさい」

「拒否権は…」

「ないわ。じゃあね」

 リツコは白いヘルメットを被り、しっかりと顎紐をセットすると、原付に跨った。

 ばりばりと騒音を撒き散らしながらすれ違っていく原付を二人は呆然と見送った。

「あの…お知り合い、ですよね?」

「ああ、中学の時の家庭教師」

「あ、そうなんですか」

「ふっ、落ちこぼれの俺を2ヶ月でクラスのトップに仕上げたんだ」

「えっ!そんな…」

「思い出したくもないぜ。寝た記憶がないんだ、あの夏休みは」

 10倍増しの成功報酬を当然の結果とばかりにニコリともせずに受け取ったリツコの顔は今でも忘れられない。

 その後二度とあんな目に遭いたくないばかりに、必死で勉強をしたシゲルだった。

 そんな思い出話を聞いたマヤは、心の中でそっとリツコに感謝していた。

 あの人の家庭教師のおかげで私はシゲルさんに会うことが出来たんだ…。

「ん?どうしたの、マヤちゃん」

「何でもないです、青葉さん。あ、それより、どうして海なのにコテージなんですか?コテージって山ですよね」

「ああ、それ。海辺のバンガローなのに、山小屋風に作ってるんだよ。加持さんも変な趣味してたよなぁ…」

 シゲルはふと加持のことを思った。

 死んだのではないかとニュースで報道された加持。

 数年前にミサトを新築のバンガローに住まわせた加持。

 その後、二人してここはコテージだと主張し、ついに周囲の人間にコテージとして認めさせてしまった。

 その悪戯っぽい二人の表情の記憶が、シゲルの胸を熱くさせた。

「ちょっと、私はどこに乗ればいいの?」

 突然耳元で、忘れることも出来ない鬼のような家庭教師の声がした。

「わっ!」

「何、驚いてるの。13分で戻るって言ったじゃない」

「あ、そうでしたっけ。じゃ、荷台に」

「仕方がないわね」

 リツコはじたばたと荷台によじ登ろうとする。

「あの…手伝ってあげないでいいんですか?」

「マヤちゃんは優しいなぁ。でもね、あの人にそんな隙を見せたら、いつの間にか運転席に座ってるんだ」

「え、そうなんですか?」

「あの人の運転で俺荷台にいる自信ないし、せっかく買ったものがダメになるのはイヤだな」

「失礼ね。乗ったから、さっさと走りなさい」

 地獄耳のリツコは、荷台から声をかけた。

 シゲルが出てくる気配がないので諦めたのだ。

「はいはい、じゃ行きますよ。あ、おまわりさんが来たら…」

「手を振ってあげようかしら」

 ああ、その方が向こうが驚いて捕まらないかもしれない。

 シゲルはそう確信したが、口には出さなかった。

 付き合いが長いので、言っていいことと悪いことの区別は充分つくのだ。

「それじゃ、コテージに参りますか」

 

 その、問題のコテージでは…。

 

「ページワンよ!」

「え!もう?」

「アスカ、強いわねぇ」

「へっへ〜ん!あ!2枚取り?が〜んって嘘。私も“2”持ってたの。はい、おしまい!」

「ええっ!じゃ、僕が4枚引かなきゃいけないの?」

「シンジ、弱すぎ!」

 アメリカンページワンの勝負はアスカが圧勝している。

 先ほどのシンジ抱きしめの一件でアスカはミサトの気をほぐそうという気持ちはなくなってしまっていた。

 いきおい、ミサトの心は荒んでしまっている。

 何よ、コイツ。少しシンちゃんにちょっかい掛けただけで、こんなにむきになっちゃって。

 面白くないわね。

 せっかく気をまぎらわそうとしたのに…。

 テーブルの下に転がる缶の数はすでに20本を超えている。

 ミサトの自制心は酒の力で散逸してしまっていたことをアスカも、そしてシンジも気が付かなかったのだ。

「アスカ強いわね!そ〜だ!賭けよう!」

「あ、お金を賭けるのは少しまずいんじゃ…」

 シンジは正義感ぶって言ったのではない。

 アスカの強さを見せ付けられたのだ。

 これじゃ身包み剥がれてしまう。

「大丈夫よン。賭けるのはお金じゃないわ」

「じゃ何よ」

「キス」

「はい?」

「だからキスを賭けるのよ。キスを。勝者が敗者の唇を奪えるの。じゃ、5回戦勝負よ」

 ミサトは二人の返事を待たずに札をシャッフルし始めた。

 いずれにしても、二人とも返事どころではなかった。

 アスカは自分の勝利を確信していたので、キスという行為がどういう意味かを頭の中で整理していた。

 勝者は自分。敗者は…圧倒的な弱さを誇るシンジ。

 つまり自分ことアスカが、シンジとキスをするということだ。

 そう結論が出た瞬間、アスカの頭は真っ白になってしまった。

 片やシンジは、不謹慎にも期待感に満ち溢れていた。

 負けるのは間違いなく自分。

 そして、どっちが勝っても、美女か美少女にキスしてもらえる。

 これは素晴らしい幸運じゃないか。

 アスカはそんなシンジの顔を見て我に返った。

 いや、ミサトとのキスを夢見ていると誤解したのだ。

 アスカは熱くなってしまった。

 ミサトの目論見どおりに。

 勝負を焦るアスカは、切り札を早めに使ってしまう。

 そこをミサトに巧く立ち回られてしまい、なかなか上がれない。

「はい、上がりよン!」

 2回続けてミサトが勝者。

 予想通りにシンジの持ち札の点数が高く、それがそのままミサトの点数に反映される。

 アスカは焦った。

 ここで上がっておかないと、挽回不可能になる。

 とこらが何も考えていないシンジがことごとくアスカの作戦を妨害する。

「ちょっと!馬鹿シンジ!アンタ、ミサトに勝たそうとしてるんじゃないのっ!」

 ミサトにドロー3を喰らわそうとして綿密に練った計画が、

 シンジのスキップであっさり順番を飛ばされてしまい、ミサトが上がってしまった。

 アスカはテーブルに手札を投げつけ、シンジに罵声を浴びせた。

「な、何だよ。僕はそんなこと考えてないよ」

「どうだか?ミサトとキスできるって鼻の下伸ばしちゃってさ。このスケベ!」

「うっ…」

 正直者のシンジは言い返せない。

 確かにキスをしたい。

 但し、相手はミサトでもアスカでもよかったのだ。

 その点だけがアスカは見抜けていなかった。

「はいはい、次の勝負よ」

 場を見るとすでにカードは配られていた。

 アスカは手札を見てニヤリと笑った。

 8が4枚に、残り一枚がジョーカー。

 負けるわけがない。

 明らかにいかさまなのだが、熱くなっているアスカは自分の幸運と信じて疑っていない。

 ミサトが面白がってアスカにその手札を配ったのだ。

 そしてシンジにも…。

 二人が言い合っている間にゆっくりいかさまをする時間はあった。

 アスカは怒るわよね、これは…。

 罪のない悪戯とは言えなかった。

 ただ、ミサトの頭には罪悪感がなかったのである。

 悲しみと悪酔いの所為で。

「じゃ、行くわよン」

「来なさいよ!」

 現金なアスカにミサトは心の中で大笑いをした。

 この場が終わった時、どんな顔をするかしら?

 

 アスカは信じられなかった。

 手札を1枚も出すことができなかったのだ。

 まず“A”でスキップされ、そのあとはドロー3の4連発。

 ミサトはそ知らぬ顔で山から札を引くばっかりだった。

 シンジが上がった時には、アスカの手札の数は17枚。

 総失点は計算したくなくなるような点数になるのは間違いない。

 初めて上がったシンジは、完全に狼狽していた。

 自分が上がることに夢中で、アスカの気持ちを全く考えていなかったのだ。

 最後にハートの3を場に捨てた時、アスカの手が微かに震えていることにようやく気が付いた。

「引けばいいのよね…」

 3枚のカードを引くアスカの震える声が、シンジの胸を締め付ける。

 思わずシンジは言ってしまった。

「ご、ごめん」

 アスカは顔を上げずに吐き捨てるように言う。

「何謝るのよ」

 手札から視線を上げると、シンジとミサトの顔が目に入った。

 少し青ざめている上半身裸のシンジ。

 そして、ミサトはへらへら笑っていた。

 酔っ払い独特の虚ろな瞳で。

 しかし、アスカには笑われたことでいかさまをされた事を確信した。

 その怒りでアスカは我を忘れた。

「いかさま…したんでしょう?」

 低い声でミサトに問い掛ける。

「え?何の事?わかんないわぁ、お姉さんは」

「うっさい!」

 アスカは立ち上がって、手札をテーブルに投げ捨てた。

「どう考えてもいかさまじゃないの!こんな…こんな勝負やってられますかってのよっ!」

「ふ〜ん、じゃアスカは棄権するんだ」

「アスカ、僕は……うわっ!」

「それじゃ、いただきまぁ〜すっ!」

 ミサトは立ち上がりかけたシンジの腕を掴み、自分の膝に引き寄せた。

 そして、左手でシンジの首をしっかりと固定すると、その唇にむしゃぶりついた。

「あ…」

 アスカは立ったまま、絶句してしまった。

 目の前、ほんの1mほど前で、シンジとミサトがキスをしている。

 いや実際にはシンジがミサトにキスをされているのだが、アスカはそう受け取ることは出来ない。

 そのシンジの方は初めてのキスがこんなに強烈なものになってしまい、正直なところ気持ちがいいとは思えなかった。

 お酒臭い…。

 ミサトの口から漂うビールの臭いが、甘い感触など吹き飛ばしてしまっていた。

 ところが、次の瞬間、シンジが想像もしなかったことが起こった。

 うわっ!な、な、何?何だよ、これ!

 シンジの唇を抜け、食いしばった歯をこじ開けて、温かいものが口の中に侵入してきたのだ。

 それがミサトの舌だと気が付くまでに数秒はかかった。

 そして、気が付いてしまうとその不思議な感触に頭の芯まで痺れてしまった。

 ああ…気持ちいい。

 ミサトの舌はついにシンジの舌を捉え、執拗に絡ませてくる。

 こ、こ、これが…。

 シンジがあまりの快感に我を忘れそうになった時、とんでもない音がした。

 ガシャァ〜ン!

 瞑っていた目を開けると、ミサトの頭越しに身体を震わせているアスカの姿が見えた。

「き、嫌い、嫌い、アンタなんて大嫌い!」

 アスカはそう叫ぶと、シンジの視界から消えた。

 そして、扉が派手な音を立てて閉まる。

 シンジの意識はその瞬間に覚醒した。

 やばい!アスカを怒らせちゃった!

 シンジはミサトから逃げようとするが、ひ弱な高校生が元刑事の締め技から逃れられるわけがない。

 じたばた暴れるシンジをミサトは淫蕩な瞳で見据えた。

 何よ、この子。私のキスがいやだって言うの?

 よぉし、こうなったら、身も心も蕩けさせてやろうじゃない。

 ミサトの危険な決意は暗い炎を上げて燃え上がった。

 

 アスカはコテージの扉に背中をもたれさせていた。

 1分待ってあげようと思った。

 その後、もう2分だけ待とうと決めた。

 後頭部を扉に当てて、空を見上げる。

 その状態でもう何分か待った。

 しかし、シンジは出てこない。

「馬鹿…」

 そう呟くと、アスカは視線を下に落とした。

 背中を扉から浮かす。

 身体をターンさせ、扉を見つめる。

 その険しい視線はまるで部屋の中まで見とおしているようだ。

 どかっ!

 彼女は扉を思い切り蹴り上げる。

「この、大馬鹿シンジっ!」

 その叫びは確実にシンジに聞こえただろう。

 しかし、もうアスカは待たなかった。

 くるっと身を翻すと、アスカは夕焼けに赤く染まった道へと姿を消したのだった。

 

 

 

 

TO BE CONTINUED

 

 


<あとがき>

 し、シンジ!なんて事をするんだ、お前ってヤツは。

 自暴自棄に酒の勢いが加わって、ミサトの暴走は停まりません。このままでは…。いったい、誰が停められるというのか?

 さてさて、次回いよいよミサト編最終回!アスカ、がんばれ!シンジのファーストキスは奪われてしまったが、自分のファーストキスがあるじゃないか。まあ、その前にシンジへの恋心を自確しないといけないのですが。

 

2003.08.13  ジュン

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